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最高裁判所第三小法廷 昭和61年(あ)375号 決定

本籍

東京都目黒区下目黒五丁目五番

住居

同 目黒区下目黒一丁目五番一九号

京王目黒マンション四〇七号

会社役員

三浦正久

昭和八年三月一一日生

右の者に対する有印私文書偽造、公正証書原本不実記載、同行使、所得税法違反、偽造有印私文書行使被告事件について、昭和六一年二月一四日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中八〇日を本刑に算入する。

理由

被告人本人の上告趣意は、憲法三七条二項、三一条、三二条、一四条一項違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、再審事由、量刑不当の主張であり、弁護人篠原由宏の上告趣意は、憲法三一条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人百瀬和男の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認、再審事由、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長島敦 裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡満彦 裁判官 坂上壽夫)

○ 上告趣意書

被告人 三浦正久

右被告人にかかる所得税法違反等被告事件につき左記のとおり上告の趣意を陳述する。

昭和六一年六月二六日

右弁護人 篠原由宏

最高裁判所第三小法廷 御中

第一 原判決の被告人の昭和五八年度所得にかかる所得税についての所得税法違反に関する被告人の雑所得及びこの控除項目としての経費又は雑損の認定には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認が存在し、破棄しなければ著しく正義に反する違法がある。

一 被告人の昭和五八年度の所得について

被告人が昭和五八年に本件土地代金の内津島テル子(以下テル子という。)に渡さず手元に留保した一億五〇〇〇万円は、脱税工作のための調査費用、工作費用、口止め料等の必要経費を含んだ実貿預り金であって、被告人としてはテル子らとの間で所経費を精算したうえ報酬の額につき合意して初めて被告人の所得となるべきものである。

被告人が右金額を手元に留保した時点では、同人とテル子との間にはまだ明確な報酬の合意はなく、テル子は漠然と被告人に対する報酬と思っていたに過ぎない。

右留保金から被告人は前記調査費用、工作費用、口止め料等の必要経費を差引く他、亡津島己善蔵に対する保証債務履行請求権五〇〇〇万円の債権を差引くものであった。

この債権五〇〇〇万円の存在は被告人が捜査段階で再三述べていたものであるが、当時右債権が存在する証拠が発見されず、捜査当局はまったくこれをとりあげることなかったものである。そのため、被告人は裁判においては情状が悪くなると考えて、一審ではその主張を諦めていたところ、二審の終結直前になって記録を整理中偶然に右債権の存在を証明する念書(資料八-三)を発見し、急ぎ証拠を提出をしたが、同審ではもはや採用されなかったものである。

同念書が真実前記債権の存在を証明するものであることは、同念書に見覚えのあるとする田島勇次の書簡(資料八-一、二)からも明らかである。

にもかかわらず、原判決は右証拠の存在を何ら取調べることなく、漠然としてテル子の証言のみで被告人の報酬を一億二〇〇〇万円としたのは明らかに事実の誤認であるといわざるをえない。

二 被告人の昭和五八年度の経費又は雑損について

1 河田信幸(以下信幸という)に対する支払手数料について

被告人は信幸に対し支払った手数料は金八〇〇万円である旨主張してきた。

原判決は、信幸の供述を根拠として、同人に対する支払手数料は金三〇〇万円であると認定している。

しかしながら、信幸自ら右供述は虚偽で右手数料の真実の額は金八〇〇万円であることを認めている。(資料-四)

原審では信幸の再度の証人尋問を求めたが採用されず、結局同人の虚偽の証言を基に本件を判示されたもので明らかに事実を誤認している。

2 信幸に対する貸金債権の貸倒れについて

被告人が信幸に一〇〇〇万円を貸付けたことは信幸に対する貸金支払の催告の内容証明等より明らかなところです。

原判決は、昭和五八年度中に信幸に対する貸付金が貸倒れになったとは認められないと判示した。

しかしながら、当時信幸は同人名義のマンションの買受残代金の支払いの他、多額の負債をかかえており、返済能力はなかったものである。信幸は、当時大阪屋からマンションを担保に金を借りるだけの余力がありその借金から被告人に約四〇〇万円を返済したということが、真実でないことは信幸を再度調べれば明らかとなるはずである。

けだし、信幸が株式会社東京住宅ローンから昭和五九年六月二九日に右マンションを担保に六五〇万円を借入れできたのは、右大阪屋の借金を株式会社東京住宅ローンに肩代りしてもらったにすぎないからである。

又、昭和六〇午七月二二日成立した東京地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四一九一号事件の和解は、信幸の支払い能力がないことを前提に、債務名義の保全のためした処置であり、これらのことは債権者において債務者が無費力となったときその債権の保全のためにしばしばなされる処置であり、これらをもって昭和五八年度に信幸が支払い能力があったと認めることはあまりに飛躍した論理というべきである。

そもそも貸倒れについては、債務者が支払能力がなくなったことが客観的に認識できればあえて債権者において債権放棄又は債務免除の意思表示は必要でなく、一方、債権者において支払いの催告又は訴訟の提起等の講求の意思が明らかがあっても客観的に弁済ができない状態になれば貸倒れと認めざるをえないはずである。(資料一〇)

前記の場合でも、被告人の信幸に対する債権は昭和五八年度に客観的に回収不能になっているものであり、債権者間において担保を差換えることによる借金の肩代りをしたとしても、又被告人において債権の取立ての訴訟を提起したとしてもそれをもって客観的に右債権の回収不能が変るわけではないはずである。

又、通常償権が客観的に回収困難となったとき、債権額全額とはいわなくとも少なくとも、その半額は貸倒れとして損金処理できるはずである。

右債権についても、その半額五〇〇万円は貸倒れ処理が認められてよいはずである。

3 西新宿物産株式会社に対する債権の貸倒れについて

同社が昭和五八年七月一三日頃不渡をだして倒産したことは原判決も認めるところである。

同社は当時約八〇〇〇万円の負債を抱えており、同社にはめぼしい資産はなく、同社代表社海谷侑宏にも資産というべきものが全くなく、同人の兄海谷有孝も同様であって、海谷兄弟が右貸金に連帯保証しているといっても連帯保証人らは当時行方不明であり、その回収は不可能であったものである。

従って、前述の通りこの時点で全額ないしは少なくとも半額について貸倒れを認めるべきである。

海谷侑宏が将来右債務を支払うといっても、当時支払い能力のなかったことに変りはなく、又被告人が同社倒産時に右債権回収不可能と思ったことは、後日になって状況の変化により同社に支払いを催告したことと矛盾するものではないこと明らかである。

4 株式会社高原牧場に対する債権の貸倒れについて

原判決は、本債権については昭和五五年に同社が事実上倒産しているとして、その後の昭和五八年における同債権に関する判決及びその債務名義に基く動産執行が不成果に終ったことによる同執行の取下した事実をもってしても債権回収不能は認めないと判示する。

原判決は前記の場合の事実認定と異り事実上の倒産時を債権回収不能時としていること自体明らかな矛盾である。

債権回収が客観的に不可能と認識するには、債務名義をとりそれに基く強制執行した結果不成果であったことくらい明白なものはないはずである。

そもそも、債権回収が客観的に不可能になったといっても債権者において、その事実を認識しない限りは貸倒れ処理できないことは明らかである。例えば、支払不能の債務者が死亡したとき、その相続人が全員相続放棄の手続を終った時点で、純客観的には債権回収不可能として貸倒れ処理すべきであろうが、全員相続人の相続放棄終結を知らない債権者にとっては、なお相続人から債権回収がはかれるものとして貸倒れ処理をしないことは当然のことで、右事実を知ったとき貸倒れ処理をすることは通常のことである。

右債権についても、仮令、昭和五五年時点で債権回収が客観的に不可能であったとしても、被告人にはその事実の認識ができず、なお他に財産があり回収できるものとして、後に強制執行までしてみてはじめて債権回収不能の事実が判明すれば、その時点で貸倒れ処理をすることは会計上認められた妥当な処理というべきである。

原判決がこれらの点を等閑視して事実の認定を誤ったこと明らかである。

5 尾崎恭彦に対する債権の貸倒れについて

債権者尾崎恭彦が死亡し、相続人尾崎克典がその債務を承継したこと及び同相続人から右債権の回収は困難であることは原判決も認めるところである。

しかしながら、原判決は昭和五八年中に格別の変化がなかったとして、同年度に貸倒れを認めようとしなかったものである。

ところが、被告人は右尾崎克典に対し昭和五八年度に、右債権の支払いの催告をし、同人からも支払ってもらえないことをようやく認識したものであり、被告人にとって同年度においてようやく右債権が回収不能になったことが認識できたものであり、まさに格別の変化があったものであり、右時点で貸倒れを計上することは、前述のとおり妥当な会計処理というべきであること明らかである。

6 丸藤興業株式会社及び櫛引藤司に対する債権の貸倒れについて

被告人の右債権の存在は、原判決も認めるところである。原判決は、右債権が昭和五八年度中に格別変化があったとは認めがたいとして、同年度の貸倒れを認めなかったものである。

しかしながら、被告人は右債権を取立てるべく、昭和五七年二月一二日櫛引藤司方で動産執行し、昭和五八年六月一五日小林利治に右債権の回収方を依頼して委任状を発行し、同月二〇日内金五万円の支払を受けていることは原判決も認めるところである。

被告人は右内金を受取るに際し、残金金額を免除する旨の念書を差し入れているものであり、従って右残金について貸倒れが成立することは明らかである。

この点につき、二審で右小林の証人申出をしたのであるが、同審では右申出を却下したものである。同証人を尋問していれば、右債務免除の事実が明らかになったはずであり、事実を誤認することもなかったはずである。

7 長嶋史朗に対する債権の貸倒れについて

原判決は、昭和五八年中に被告人が債務者に対し債務免除の意思表示をしていないことを理由に同年度の貸倒れを認めなかったものである。

しかしながら、被告人は昭和五八年二月三日に債務者方で動産執行をし(差押物の評価額六万二千円)その成果がなかったことから、後日右執行申立を取下げたため、同年七月一一日執行取消となっていることは原判決も認めており、後日わざわさ債務者に対し債務免除の意思表示をするまでもなく(実際には、右執行申立を取下げたとき残債務の免除をしている)、まさにこの時点で右債権は回収不能となったものであり、この点を等閑視した原判決は明らかに事実を誤認したものである。

8 田島勇次に対する債権の貸倒れについて

被告人が昭和五八年五、六月ころ渋谷駅前の喫茶店で田島勇次と会い五万円の返済を受けた際、もう支払へないので勘弁して欲しいと頼まれて、債務免除としたのは、一覧表一〇、一一の債権であって、当時執行申立をしていた別口の債権ではない。(資料九-一、二)別口の債権については、被告人は債権免除をしていないので、同年一一月三〇日その執行申立を取下げたものの、昭和六〇年八月三日再度執行の申立をしている。

従って、少なくとも一覧表一〇、一一の債権については昭和五八年度中残金の債務免除をしているものであり、右債務免除額について貸倒れを認めるべきこと明らかである。

9 株式会社アコスインターナショナルの債権について

右債権がもともと回収の困難な債権であることは原判決も認めるところである。

しかしながら、原判決は昭和五八年中に格別の変化はなかったとのことで同年度中の回収不能を認めなかった。

ところが、被告人は昭和五八年、当時同社(商号株式会社山和通商)の代表者に対し、債務免除する旨の手紙を出しており、同年度に貸倒れ(それ以前の年度で半額の貸倒れを計上すべきであるとすれば少なくとも残り半額について)になっていること明らかである。

10 佐藤に対する債権について

右債権は昭和五八年一一月二八日、東京地方裁判所八王子支部昭和五六年(ワ)第二八五号事件の判決をもって全額認められたものであるが、被告人にはそれ以前より右佐藤に資力がないことがわかっていたため、右事件の訴訟費用を除いて右債権については免除する旨、手紙をもって債務者に意思表示をしているものであるから、昭和五八年度中に右免除額について、貸倒れを認めるべきこと明らかである。

第二 第二審は、被告人がした重大な証拠・証人の申請を却下しこのため被告人の防御権を侵害し、実体的真実発見の努力を怠ったものであり、その証拠調手続は憲法第三一条に定める適正手続の保証に反するものであって破棄をまぬがれない。

憲法第三一条が米国の「デュー・プロセス」に由来するものであり、単に形式的法律の定める手続の保証のみならず、その実体的な要件も適正な内容の法律で定められていることとするのが通説である。この実体的にも適正な法律という意味には、当然その運用が適正であることをも含むものである。

ところで、第二審の証拠調べにおいて前述の通り、所得の算定に重大の影響を与える新証拠及びその証拠能力についての証人並びに貸倒れについての証拠、証人を被告人において申請したにもかかわらず、その多くを却下して取調べすらしなかったものである。このため、第二審はちよっと証拠調べをすれば実体的真実を知ることができたにもかかわらず、前記指摘のごとき事実誤認を招来したものである。

第二審の右のような独善的証拠調べは、裁判所の裁量を著しく免脱したものであり、このため被告人は刑事裁判における正当なる防御権を著しく侵害されたものである。第二審の右のような証拠調べ手続は、右適正な手続の保証を定めた憲法第三一条に反するものといわざるをえず、従って原判決は破棄をまぬがれないものである。

第三 原判決の量刑は甚しく不当である。被告人の量刑は共犯者の量刑と比べ、被告人には前科があることを考慮に入れても著しく過酷に過ぎる。

被告人は共犯者からの執拗な依頼があって本件犯行に及んだこと、脱税額の大半について弁済の見込みが明らかであること等の情状を考えれば、原判決の量刑は甚しく不当であり、破棄しなければ公正に反するといわざるをえない。

以上

〈省略〉

○ 上告趣意書

被告人 三浦正久

右の者に対する有印私文書偽造、公正証書原本不実記載、同行使、所得税法違反、偽造有印私文書行使等被告事件について弁護人の上告趣意は次のとおりである。

第一、原判決は、被告人に対する所得税法違反被告事件につき審理不尽に基づく理由の不備または事実の誤認があってその不備または誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄されるべきである。

一 原判は、被告人に対する所得税法違反事件における被告人および弁護人の控訴趣意にいう被告人が昭和五八年に津島テル子らから受領した一億五千万円は脱税工作のための調査費用、工作費用、口止め料等の必要経費を含んだ実質預り金であって被告人としてはテル子らとの間で諸経費を清算したうえ報酬の額につき合意して初めて被告人の所得となるべきものであるのに、右合意の存否及びそれが昭和五八年中にあったか否かについて十分審理することなく右金額全額を昭和五八年分の収入とし、かつ被告人が主張した必要経費を全く認めていないのは違法である、また収入金額のうち返還すべきこととなった金額は当該所得の計算上なかったものとみなされる筈である、などの主張に対し、被告人がテル子らから受領した一億五千万円は、その全額が謝礼である、また必要経費も合計二〇四六万一九〇円を認めている、所得税法六四条一項、所得税法施行令一八〇条一項によりその主張は認めない、というものである。そしてその余の控訴趣意についてもすべて否定した上で控訴を棄却している。

二 しかして原裁判所および第一審裁判所においては、充分なる審理をした上で判決をしたものではなく、弁護人の申請する重要な証人および書証の取調申請を却下して判決したものであり、これは実体的真実発見のための審理不尽といわざるを得ない。特に原裁判所は、右の如き争いのある事件において、すべての証人調べを却下し、わずかに被告人質問をしたのみである。第一審裁判所においても同様であり、虚偽の証言をした河田信幸と杉原由紀を調べただけで本件の中核をなす重要証人の津島テル子、河田エイ、桜井恒雄、小松美智夫、冨成昭英らの証人調請求を却下し、その取調べを全くしていない。本件における貸倒れや報酬等の所得税法違反事件については終始被告人は全面的に否認し真執に争っているものである。これらの真実は、右証人らによって解明され得るものであって、この調べを安易に却下した原判決には刑事訴訟の基本原理である実体真実主義(刑事訴訟法一条)を軽視し、ひいては適性手続に反し、実質的な被告人の裁判をうける権利を無にするものであって重大な違法であるといわざるを得ない。本件は、一に審理不尽に基づく理由不備、事実誤認である。

三 判例として、検察官の立証について「裁判所が検察官に対し刑訴規則二〇八条に則り、立証の追加補充を促し、又は刑訴法二九八条二項に則り、職権で証拠調べを行うことができるばかりでなく刑訴法一条の事案の真相を明らかにすることを目的とする刑事訴訟の本質に照らすと立証の追加補充を促し、又は職権により証拠調べを行うことが当然とるべき措置である(東京高判、昭和二七年九月三〇日、高判特三一七-二八)」、検察官が共犯者の供述調書提出を遺脱した場合につき「裁判所は、同供述書の提出を促す義務がある」としてこれをしないで判決した場合につき「該判決は審理不尽に基づく理由の不備又は事実の誤認があってその不備または誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである。」(最高昭和三三年二月一三日判、刑集一二、一一、二一八)、とする破棄判決例であるが、このことは検察官の有罪立証に該当するとともに、より被告人、弁護人側にも人権尊重の意味から無罪立証にも強く要請され妥当する裁判所の実体真実解明義務であるというべきである。本件においては、前記証拠調べをなすことにより、その真実解明がなされたものであり、その立証を促し又は釈明をなすどころか、積極的にその立証を阻害したもので著しい違法である。これは審理不尽であり、これにより理由不備ないしは事実誤認に陥いりこれは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄されるべきである。

第二 原判決は次のとおり審理不尽の重大な事実誤認をなしており、これは判決に影響を及ぼすことが明らかで、破棄しなければ著しく正義に反するものである。

一 原判決は、控訴趣意にいう一億五千万円は実質預り金であるとの主張について、これは全額謝礼であると認定しているがこれは誤りである。一審の河田信幸証人も預り金であることを証言している(三丁)。もっとも、この点はその後においての検察官の誘導によって訂正しているが、これは誘導によって変えたもので、当初の預り金との証言が正しいのである。

二 また、次の如く経費として認定すべきものを否定している誤りがある。

1 原判決は、河田信幸の証言に盲従して被告人よりの右河田に対する支払手数料を金三百万円と認定しているがこれは金八百万円の誤りである。このことは、河田エイの証言によって明確となるべきところ、これをしなかったため事実が明らかになっていない。現在においては、右信幸がその偽証を認め被告人に謝罪している事実がある。しかして、ここで第一審における河田信幸証言の信用性を検討することとする。そもそも一審における河田信幸の証言には信用性がない。右河田は、被告人から借りた金は金五百万円とか(二三丁)、又は五五〇万円とか述べて(七丁)その時々により証言が異なり、九月二八日には大阪屋質店から六〇万円を借りて被告人に返済したと証言しているが、この頃、被告人は杉原由紀と九州旅行をしており(同杉原の昭和五九年七月二七日付検察官調書二丁)不在であって返済することは不可能でありこのように河田証言は信用できないものである。河田は、被告人から借りた金は、いつまでもずっと使ってていいと言われた(四丁、五丁)というのであるから、これを高利の質屋から借りて返すという必要がない(一一丁)。そして、この借金は、母(河田エイ)が被告人から借り、右河田が母から借りたことになる(八丁)というのであれば、母親が被告人に返済すればよく、右河田は母親に返済すればよいものである。このように右河田の証言は矛盾極まりない。その都度、検察官の尋問に迎合し、誘導による虚偽証言をしているのである。さらに、右河田は自動車代領収書、と注文書および金銭借用証書を示されて、この借用書は五月二四日に被告人から車を買うために二百万円を預り、預り証の代りに書いた借用証書であるとこじつけた証言をなし(預り証など借用証書を使わずにすぐ書くことができる)、車を買って登録を終った時点で自動車代八〇万円を差し引き、二〇万円の利益代の残金百万円を被告人に返済したと証言している(一六丁乃至一八丁)。

しかし、この三通の書類は何れも右河田が自ら書き入れた日付であって、昭和五八年五月二四日となっている。これを素直に読めば、五月二四日に自動車を買入れて被告人が八〇万円を支払い、同日別に金二百万円を貸し渡したというものである。このことは、被告人が尋問で答えているように二百万円は河田の車の仕事のために貸したものであり、これとは別に、自動車代は百万円を決済したということに合致しているのである(昭和五九年一一月二八日付尋問調書四八丁)。そもそも河田の証言のとおりであるなら借用証は自動車代領収証および残金百万円と引換えに返還していなければならない。被告人のもとにある筈がない。そして、八〇万円の車を買うのに二百万円もの金を預ける必要はなく、買う時に八〇万円を払えばよいのである。河田は、自動車注文書に五月二四日に金八〇万円を受領したと記載しており、二百万円受領したとはなっていない。この注文書が示すとおり、被告人のいう手数料二〇万円を含めて金百万円を決済したという事実と一致しており、河田証言は証拠と合わないもので虚偽である。このことは証拠上明らかであるがなお母親河田エイの尋問によって明らかとなるものであった。この証人申請を却下して、真実解明を怠り、虚偽の河田証言を償用した原判決は、審理不尽そのものであり、これにもとづき事実誤認をなしたものである。著しく正義に反するというのほかない。

2 被告人は控訴趣意において昭和五八年三月一六日、河田エイに対して金二千二百万円の金員を交付し、これは借金等の返済である、と主張しているが原裁判所は、これに対する何らの判断を示さず、これに関する証拠調べを一切していない。右金員は、税務当局が貸金等であると認定し、河田エイも贈与の申告をしていない。また河田信幸も一審の検察官の尋問に対し「被告人との二〇年に及ぶ交際の中での貸借や迷惑をかけられたことへの慰藉料の意味だと思う」と証言しており(六丁)、これは所得から控除されるべきであり、被告人も一審においてその旨田尾裁判官の尋問に答えている(第六回公判調書一〇丁ウラ)。以上により、原判決は明らかに事実誤認をなしており、なお河田エイ証人の尋問によりこれを明確にして認定すべきであるのに、却下して審理不尽をなしたものである。

3 なお、原審においては、西新宿物産株式会社に対する債権についてもその貸倒れを否定しているが右に対する事実は、その代表取締役である海谷侑宏の証人調べをして始めて明確になるべきところ、その取調べをせずこの点審理不尽であり、実体真実解明を怠り理由不備、事実誤認をなしている。その不備又は誤認は判決に影響を及ぼす重大事由である。

4 原判決はその理由において被告人の田島勇次に対する債権につき、債務免除した旨の被告人の当審供述は信用できないと認定している。しかし、その真実が何であるかは弁護人の申請にかかる田島勇次を証人として尋問することにより明確となるものであり、裁判所が単に推測により被告人供述を否定すべきではない。ここにも重大な審理不尽と事実の誤認がある。

5 原判決は、株式会社高原牧場に対する債権について昭和五八年五月二五日に動産執行をなしていたところ、これを取下げた事実を認定しながら、昭和五八年中に被告人が債務者に対し債務免除の意思表示をした等の事実も認められないので昭和五八年中に回収不能になったとは認められない、と認定している。しかし、右同社は昭和五五年に既に事実上倒産状態にあり、被告人は、これに対し昭和五八年に至り判決を債務名義として動産執行したものの、この債権を放棄し債務免除の上その執行を取下げたものである。免除するのでなければ右執行を取下げる必要もなければその理由もない。原判決は、理由不備ないし事実誤認をなしており破棄を免れない。

6 又原判決は、被告人の長嶌史郎に対する債権についても同様の誤りを犯しており、特にこの件については河田エイ証人の取調べによって明確となるところ、この申請をも却下して審理不尽にもとづく理由不備または事実の誤認を犯しその不備、誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

7 原判決は、一覧表番号4の尾崎恭彦に対する債権につき尾崎克典が相続放棄した事実はないから同人に債務が承継された、として被告人の右債権が回収不能になったものとは認められない、と認定している。しかし右同人は、原判決も認定するように財産が皆無であり、その上、交通事故に会い入院したり手術してやっと運転助手として働くようになったものの食べるのにやっとのわずかな給料しか得ておらず、かえって他の債務を承継しているほどである。従って、被告人も同人に対して手紙により債務を免除する旨通知していたものであるからこれは当然貸倒れと認定すべきものである。よって原判決はこの点事実誤認をなおしておりそれは審理不尽にもとづくものであり判決に影響を及ぼすものである。

8 原判決は、被告人の太洋ラジカル株式会社に対する債権は、その後代物弁済がなされて消滅したとする一審判決の認定が正当である、としている。しかし被告人は、その後同社を相手方として訴訟をなし、判決を得て強制執行したが回収不能と確定している。これからすると原判決は、この点事実誤認をなし、理由不備のそしりを免れない。

9 その他の主張する債権すべてにつき原判決は同様の事実誤認をなしており、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものである。

以上によると被告人に対する所得税法違反被告事件は総合して無罪を言渡すべきところ原判決は審理不尽をなした上事実誤認をなしているものであり判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄されるべきである。

第三 原判決は、再審の請求をすることができる場合にあたる事由があり原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものである。

一 被告人と亡津島巳喜蔵における貸借、債務関係は、全く存在しなかったものではなく金五千万円の範囲において存在していたものである。すなわち昭和五一年一〇月三〇日に、貸主三浦正久借主木藤米吉、借入金額五千万円、利息年一割二分、弁済期を昭和五六年一〇月三〇日とする金銭消費貸借契約に津島巳喜蔵が保証人となる旨契約し、その念書に捺印している事実が判明するに至っている。これからすると右津島は被告人に対し金五千万円の債務を負担していたものであり、そのための新たな証拠が発見されたもので再審事由に該当する。

二 なお、河田信幸は、一審証言による報酬手数料三百万円は事実に反し、これは金八百万円であることを認める書面を作成している。又河田エイも被告人より受領した金二千二百万円は立替金、貸金等の返還であることを認める証書を書きこのため、右河田エイは右金員につき贈与の申告をしていない旨申告書を提出するに至っている。以上により本件所得税法違反被告事件につき新たな証拠が発見されており、再審事由があるので原判決を破棄すべきである。

第四 原判決は刑の量定が著しく木当であり原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものである。

原判決は、被告人に対し控訴棄却して一審判決の懲役七年罰金二千万円の判決を認容している。そして、量刑の理由は一審判決をおおむね正当として是認した上、種々理由を挙げて被告人に有利な諸情状を考慮しても右判決の量刑は重過ぎて不当とはいえない、と判示している。

しかして原判決は、被告人が本件すべての犯行について主導的な役割を果たしている、としているが、本件脱税工作の主犯は桜井恒雄であり、被告人は同人からの執拗な依頼によりやむなく加担したものである。被告人は事実に反する点についてはともかく、認めるべき事実についてはこれを認めて深く反省しており、その悔悛の情は顕著である。確に被告人には前科がありその上、本件に加担したことは誠に遺憾であるといわざるを得ない。然し、その点を考慮したとしても、他の相被告人との刑期の比較衡量および事件の内容やその経緯からすると、懲役七年、罰金二千万円はいかにも重きに過ぎるというべきである。なお被告人の多額の債権は、国税当局により差押えられている等の事情を考慮すれば、被告人に対する刑の量定は著しく不当であるといわざるを得ない。よって著しく正義に反するものであるから原判決は破棄されるべきである。

以上原判決はすべての点で審理不尽による理由不備又は重大な事実誤認にもとづき著しく不当に重い刑を科したものであって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するので原判決は破棄されるべきである。

以上

昭和六一年六月二五日

右弁護人 百瀬和男

最高裁判所第三小法廷 御中

○ 上告趣意補充書

昭和六一年六月一六日

被告人 三浦正久

被告人は昭和六一年五月二八日付で自ら上告趣意書を作成し、御庁宛提出中でありますが、今般本書を以て新たに追加主張致したく補充書を提出申し上げますので宜しく御披見御勘案の程をお願い申し上げます。

尚、私被告人のほか弁護人より上告趣意書が近日中に提出されますので、宜しく御披見の程をお願い申し上げます。

最高裁判所第三小法廷 御中

追加補充の趣旨

第一点 事実誤認について

一 本件第一・二審共被告人主張の貸倒れについて事実誤認をされて居る点について。

被告人が先に提出した上告趣意書本論三項(3)民事確定貸倒れ関係で申立てた先の貸倒れ債権について、一・二審共に被告人の貸倒れ損が、昭和五八年度中に生じたとは認められない旨、夫々認定され、被告人の主張を全面的に却下されて居ります。

(イ) 一覧表番号1(高原牧場(株))関係債権

(ロ) 一覧表番号4((亡)尾崎恭彦)関係債権

(ハ) 一覧表番号7(櫛引藤司)12((株)丸富)関係債権

(ニ) 一覧表番号9(長嶌史朗)関係債権

(ホ) 一覧表番号10、11(田島勇次)関係債権

(ヘ) 一覧表番号13((株)アコスインターナショナル)関係債権

(ト) 一覧表番号18(佐藤賢)関係債権

右(イ)から(ト)までの貸倒れ主張に対して、一・二審共に被告人が昭和五八年度中に債権放棄又は免除などしたと認められないと認定していますが、一・二審共右認定は事実調べをまったくせず、単に推定等による事実に反した仮空の事実を想像し(又は創作して)これを真実でもあった如く認定したものであったことは明らかである。即ち、右の貸倒れ等について被告人が主張しているのに拘らず、それに反する書証は全く無かったばかりか、検面などは全く一通として存在していないのである。そうすると、一・二審共に被告人主張を全く措信されないとしても、被告人主張に反する検面を含め書証等何も全く存在しないのに拘らず、ありもしない事実を創造して、貸倒れ損が認められない等と裁判制度を根本から無視した認定をしたものであったことは明白であります。刑事裁判では疑わしきは被告人の利益の鉄則が適用されることは論ずるまでもないことでありますが、一・二審共に検面や書証等全く被告人主張に反する証拠が一点もないのに拘らず、勝手に被告人に不利益に認定し(証拠がないため被告人に不利益があったものの如く勝手に証拠を相像されたもののようであります)処断して居ります。被告人はこれらの貸倒れ主張のため二審では(ホ)田島勇次関係について田島本人を証人申請し、被告人が昭和五八年度春頃右田島と会って三件(合計)の民事確定債権の内二件を免除し請求放棄していた事実を立証すべく田島の証人申請をしたにも拘らずこれを却下して居ります。そうすると被告人主張貸倒れについて、田島本人の証人取調べされることで一番確かに真実が判明するにも拘らずこれを却下し他に検面も書証も一点としてないのに被告人主張は措信できないとして事実に反した認定をしていたことは明らかであります。仮にも何一つ証拠(確たる)もないのに被告人に対し不利益に認定すること自体不法であり疑わしきは被告人の利益の鉄則にも反していたことは明らかであるから一・二審共取り消されなければ正義にもとることは明らかであります。

被告人は今般本申立に至り田島勇次の書面を入手致しましたので新証拠資料九-一、九-二とし追加提出致しますので御披見賜わり度く別紙本書に目録と共に提出致しますので宜しく御披見願い上げます。右の(ホ)の田島に対する貸倒れのみならず、右(イ)から(ト)まで全部について、被告人主張の貸倒れに反する検面や書証など全く一点も存在していないことは記録上明白であります。そうすると一・二審共に被告人に対し何ら証拠が全くないのに拘らず且つ事実(真実)に反してあり得ない仮空の事実を裁判所自ら創造してそれに基づき被告人主張(貸倒れ)には理由がない等と認定した一・二審は重大な事実誤認を犯したものであったから取消しされなければ正義にもとることは明らかであるので改めて御調べの上、然る可く正しい裁判を求める次第であります。

第二点 量刑不当について

一 刑の量定が甚だ不当たること等について

被告人は一審判決で懲役七年罰金二、〇〇〇万円に処せられて居ります。然るに相被告人(分離審)共犯者で

〈1〉 本件主犯者櫻井恒雄は

懲役一年八月

罰金三、〇〇〇万円 に処せられて居り

〈2〉 共犯者津島テル子は

懲役一年(執行猶予)

罰金三、五〇〇万円 に処せられて居り

ます。右の宣告刑を課せられるについては右〈1〉、〈2〉両者共に、所得税ほ脱税額について、一円も全く国税当局に支払いをしないにも拘らず(ほ脱課懲金を含め一円も支払いをしていない。)課せられた宣告刑であります。然し被告人は既に七一九万余円と本年一月から延滞金約二〇万円毎月二〇日限り昭和六七年まで毎月約二〇万円を国税当局に分割納入することに定めて居り、且つ納入している者であります。然るに被告人の刑(本刑)は懲役七年もの重刑を料刑されて居ります。被告人は再犯者故に〈1〉、〈2〉の共犯者とは同列にされ得ぬことは止むを得ませんが、被告人の刑(七年)は〈1〉の主犯者で最もほ脱額も多額であった櫻井恒雄の刑(一年八月)の実に四倍にも当る刑を課せられ、又、〈2〉の共犯者でほ脱額も多額な津島テル子(一年)の刑の実に七倍に当る刑を課せられて居ります。被告人はこれら〈1〉、〈2〉の共犯者のほ脱に加功した上、多額の報酬を得たりしていることで悪質であると認定されて居りますものの、右の如く本件主犯で最もほ脱額も多額であった〈1〉、櫻井の実に四倍、共犯者でほ脱額も多額であった〈2〉、津島の実に七倍の刑は余りにも酷であり、刑の衡量も全く配慮されなかった恣意による重刑であり不当であると思料致ます。被告人は再犯者であるということだけでかかる重刑を課せられそれを甘受しなければならないとしたら余りにも現状を重視したものと存じます。被告人は及ばず乍ら反省して居りほ脱税について毎月二〇万であっても分割支払いをして居る者であります。それに対し共犯者〈1〉、〈2〉共一円も全く納税していないのに拘らず右の如き軽刑に処せられ、納税をしている被告人に対して重刑に処されて居ることは到底理解出来ないものでありますので、何卒、再度本件自体重大なる事実誤認等被告人の上告趣意書全部について御検討御勘案賜わり改めて然る可き相当な判決をお願い申し上げるものであります。

以上の如く被告人は及ばず乍らるる申し上げましたがどうか、被告人の主張せんとする処をくみとり御理解賜わり度く重ねてお願い申し上げる次第であります。御甚大なる裁判を賜わり度くお願い申し上げます。

以上

本訴当審に至って提出可能となった(追加)

新証拠資料目録(再追加)

順番 新証拠資料番号 書証とその立証趣旨

〈九〉――一 田島勇次から被告人宛の昭和六一年六月四日付封筒である。

13 〈九〉――二 右封書在中の確認書と題した東京国税局長宛の書面であって、被告人が昭和五八年当時田島に対し資金債権を免除していた状況を証し、東京地裁昭和五二年(ワ)第八九八〇号和解三〇万円東京簡裁昭和五四年(ロ)第一八八号支払命令確定四〇〇万円の債権を被告人が免除し残りの東京地裁昭和五六年(ワ)第一二〇六七号和解四〇万円は後日(今般)免除されたものであること等の事実を証する。

以上

〈省略〉

○ 上告趣意書

昭和六一年五月二八日

被告人 三浦正久

被告人(私)に対する有印私文書偽造、公正証書原本不実記載、同行使、所得税法違反、偽造有印私文書行使、被告事件について、被告人は、本日御庁に対し、左記の通り提出致しますので、何卒、充分なる御審理賜わり度くお願い申し上げる次第であります。尚、上告趣意は、左記目次の順で記載致しましたので、宜しく御披見の程を、お願い申し上げます。

最高裁判所第三小法廷 御中

目次

序論

一 本件の経緯と実情・・・・・・一六〇九

二 新証拠資料の発見について・・・・・・一六一〇

三 証人河田信幸の証言が偽証相当であったことについて・・・・・・一六一〇

本論

一 憲法違反又は憲法の解釈適用の誤りがあること・・・・・・一六一二

二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと・・・・・・一六一五

三 一・二審には重大なる事実誤認があること・・・・・・一六一六

四 再審の請求をすることができる場合に該当すること・・・・・・一六二六

結論

一 細目に亘る結論・・・・・・一六二六

新証拠資料目録・・・・・・一六三〇

(以上)

序論

一 本件の経緯と実情

(1) 被告人(私)は、表記の罪名で訴追され、一・二審共有罪に処せられ、現在に至って居ります。これら事件の内、私に所得税法違反については、本件の捜査段階から一貫して被告人は、否認し争って居ることは、明らかであります。特に一・二審共に、証人河田信幸の嘘の証言を容易に、措信され被告人の主張に全く耳を貸さず、更に、右証言が偽証であった事実を証明するために申請した証人河田エイ(証人河田信幸の実母)等の申請をも却下されたため、審理不尽を犯し、右証人の偽証証言を誤って真実と認め、被告人の主張は、何等理由がないとして、却下結審されるに至って居たものであります。この間、被告人は、自ら種々制約ある身上にも拘らず、右証人の偽証等事実の証拠収集に、日夜努力していたところ、当審に至って、偶然にも、これを入手できた次第は、以下詳細に申し上げる通りであります。今般、入手出来た新証拠資料は、本書末尾に添付申し上げますので、何卒御披見賜わり度くお願い申し上げますと同時に、本件一・二審共に、証人河田信幸の証言を真実であると誤って認めたためによる、重大な事実誤認を犯したものでありますから、正義及び刑事裁判の鉄則たる絶対的真実の追求のためにも、一・二審共に、破棄されなければ、到底被告人には、原審判決に対し承服できない次第であります。証人河田信幸の偽証事実が、今現在になって新証拠資料等入手出来たものか、その他の実情は、以下開陳致します通りでもあります。又、その他、一・二審共に真実追求について、被告人のために、何等釈明権や職権を発動されることもないまま漠然と検察側起訴状通りに処断され被告人が主張しなかった事実(但し、検面主張済)を含めて、真実の追求を怠り、判決されたものであったことは、刑訴法三〇八条の定める被告人の権利(証人河田信幸の偽証事実証明のための証人河田エイらの証人申請さえ却下していること。)をも奪ったものであります。又、一方では、被告人が、検面で主張していた五、〇〇〇万円の津島己喜蔵に対する保証債務は、真実あったものであったが、捜査段階では、右債権が存在した証拠が発覚されなかったため、如何に被告人がこれを主張しても採用されず、かえって、情状が悪くもなると考えて一審では主張を認めていた処、二審の最終期日の直前に至って、右五、〇〇〇万円の債権が在った事実を証する“念書”が、発見されたので提出したものの、却下されて居ります。このように、被告人自身の所得税違反について、被告人が、一・二審で主張して来たことを、裁判所は、審理不尽による、重大な事実誤認を犯して来ていたことが、現在当審でやっと新証拠資料入手したことで、証明されるに至って居ります。これらの実情等について、何卒御理解賜わり、一・二審判決は、明らかに偽証等外で誤りであり、正義に反するほか、被告人の量刑にも重大な影響を及ぼすことは、明らかでもありますので、後記序論・結論等被告人自ら記載の上、上告趣意と致しますので、宜しく御勘案御裁下の程をお願い申し上げる次第であります。

二 新証拠資料の発見について

(1) 被告人の所得税法違反について、被告人は、全面的に争って居りますが、必要経費の内、河田信幸に対する支払い報酬及び河田信幸、河田エイ親子に対する貸倒れ控除(所得)主張等は、全面的に一・二審共に却下されて居ります。特に、これらの被告人主張事実を立証せんがための証人河田エイ、その他全員共に却下されたため、被告人主張事実を立証できない事態に至ったことは、後記本論で、夫々改めて申し上げます。そこで被告人は、在監中の不自由な身を省みず、自ら被告人主張事実が真実でもあったことを立証せんと企て、新証拠集の努力をした結果、二審結審内には間に合わなかったものの、当審に至って、先般重大書証を入手致しましたので、本書最後に目録と共に、新証拠資料として、提出致しますので、何卒、御披見賜わり度い次第であります。これ等の新証拠資料は、一・二審の誤りを証し、一・二審判決を根本から覆えす重大なる新証拠でもあります点を、何卒御披見御理解賜わり度く存じます。

三 証人河田信幸の証言が、偽証相当であったことについて

(1) 本訴、一審第三回公判の検察側申請に係る証人河田信幸の証言が、事実無根の虚構であったことが、今般、新証拠資料一-三、及び一-四、同三、同五-四、同六-一、六-二で、判明したので以下偽証事実を、三点に絞って開陳致します。

偽証事実第一点

証人河田信幸は、証人調書四丁目前段中頃以降で、検察官の尋問に対し、大要左の如く証言して居ります。

証言内容『被告人から三月一四日手数料(報酬)として三〇〇万円貰い二〇〇万円は、無期限で借りたものである。』等と証言して居ります。

然し、今般入手した新証拠資料一-三、及び一-四の証人河田信幸自筆自白書面で、証人河田自ら、右証言が誤りでもあり、真実は、被告人が捜査段階から一貫して主張していた通り、八〇〇万円手数料として受け取っていた旨、自白して居ります。

偽証事実第二点

証人河田信幸は、証人調書一一丁目前段中頃以降の検察官の尋問、並に同調書二六丁目前段中頃以降の弁護人の尋問に対し、大要左の如く証言して居ります。証言内容『被告人に借金を返すため、自らのマンションを担保に、大阪屋から八月一六日頃二〇〇万借り、更に、八月二三日頃二四〇万借りて翌二四日頃に港区新橋三五の前で、被告人に計約四〇〇万円渡して返済した。』七日、証言した。

然し、今般入手した新証拠資料一-三、同一-四、自白書面及び同資料五-四、河田エイ預金通帳、同資料六-一、同六-二の日興証券口座元帳で証人河田信幸と母親の河田エイらが昭和五八年八月二四日付で株式購入代金三三七万余円を送金し、株式を購入していたが、証人河田信幸は、その預金を全く持っていなかった(その事実は、右調書二五丁目後段本人自白有)事実及び河田エイも右預金通帳で明らかに資力がなく、三三七万余円の金が調達できず、河田信幸のマンションを担保に、大阪屋から借りた金で、株式購入代を八月二四日に、支払ったものであった事実が露見したことで、右の証言の被告人に返済した旨の証言が、虚構であったことは明らかである。

一方、被告人は、右八月二四日頃は、塩原温泉に三泊の旅行中で、東京には不在でもあり、不在中の被告人が、証人から、港区新橋で、会える筈も、金員を受け取ることもできなかったから、全く偽証であったものでもある。(尚、被告人が当時不在であったことは、新証拠資料七の杉原由紀の覚書を提出するほか、投宿中の旅館を調べて戴けば、明白でもあります。)

偽証事実第三点

証人河田信幸は、証人調書一二丁目後段以降の検察官の尋問、並に、同調書二八丁目前段中頃以降の弁護人の尋問に対し、大要左の如く証言して居ります。

証言内容『九月二八日、大阪屋から再び六万円借りてこれを被告人に全額六〇万円弁済した。』等と証言して居ります。然し、被告人は、右九月二八日頃は、二泊三日で九州移行を杉原由紀と共にして居り、東京都内には不在であったから、証人から金を返して貰う筈もなければ、返して貰って金を受取れなかったから、右証言は、全く偽証であったことが明らかである。尚、其の他、数々偽証が判明しているがその余は、省略して主張しないこととする。例えば、証人調書一二丁目前段中頃以降では、証人が『九月二〇日八〇万円を被告人から借りて、大阪屋に弁済した。』等と証言しているが、被告人が証人主張の如く、証人から貸金を回収せんとしているのに、八〇万円を追加して貸増するなど、経験則上、絶対にあり得ず、真実は、新証拠資料一-四、自白書面、及び同六-二日興証券口座元帳で明らかな通り九月二〇日に、日興証券から預り中の株式を引き出した上、これを処分(換金)してその金を、自ら大阪屋に、弁済していたことが伺い知られる。このように、証人河田信幸は、自ら偽証していたものであったことが判明している。

(2) 以上申し上げました実情等、何卒御理解された上、以下、本論及び結論について更に御判読御勘案賜わり度く、特にお願い申し上げる次第であります。

本論

一 原審には、憲法違反又は、憲法の解釈適用の誤りがあること。

(1) 原審には、憲法三七条〈2〉項違反又は、同条の適用違反等があったこと。(実質的には、憲法三一条三二条違反又は、解釈適用上の誤りがあったこと。)

一・二審共、被告人の貸倒れ損失の所得控除を認められず、今日に至っていることは、誠に残念でありますが、被告人は、捜査段階から一貫して争い、主張して来たものであります。特に、一審証人の河田信幸の証言が、虚構でもあり、偽証であった点を、証するため、証人河田エイ、初め数多く証人申請したものの、何れも全員を却下され、右証人の偽証を、今日まで立証する機会を奪われてしまって居ります。仮にも、原審に於て、被告人主張に対し充分その趣旨をくみとり、刑訴法三〇八条に定める釈明権を行使するなどして、証人河田エイらの証人調べをされていたならば、当然一審証人河田信幸の証言が偽証であったことも露見していた筈と確信するものであります。更に、一方では、河田信幸、河田エイらに対する貸倒れ等も立証できたものと確信致します。又、原審当時は、既に民事裁判で、東京地裁昭和六〇年(ワ)第四一九一号及び(ワ)第四四四五号の二件が和解確定し、和解調書の証拠申請について、それを取上げて居り乍ら、和解内容債権実情の貸倒れ等について本人たる証人河田エイの(申請)証人を安易に、漫然却下したため、被告人主張は、全く立証不可能に至って居ります。右和解調書を証拠採用され乍ら、本人たる河田エイの証人調べをしないため、何の証明もできない事態に至って居ります。原審に於て、右証人を調べられなかったために、前記の如く真実の追求が、全く出来ないまま結審されるに至ったことは、誠に残念であります。然るに、当審に至って序論三項で開陳した通り、一審証人河田信幸の証言が、偽証であったことが証明されて居りますが、仮にも、原審で、右河田エイらを証人尋問されて居たならば、明らかに原審に於て、証人河田信幸の証言の偽証や被告人の貸倒れ等事実も、立証され得たことは明らかであります。原審では、刑事裁判の鉄則である絶対的真実の追求の義務を自ら放棄し、延いては、審理不尽を犯し重大な事実誤認を犯していたことは明らかであります。

原審では、被告人側よりその余の証人も申請して居りますが、全員却下されて居ります。そのため、被告人主張が、真実であることを証明する機会を全く失ってしまい、他に方途も全く失うに至ったのであります。憲法三七条〈2〉項では、「掲示被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる」旨、規定し証人尋問権が保障されて居ります。然し、原審では、被告人主張の真実を立証する証人を、ことごとく却下し、証人尋問権を不法に奪って居るのであります。これがため、真実の証明の機会を失い、当審に至って、初めて新証拠資料が入手したため真実が証明されるに至ったものの、原審では、右憲法で保障する証人尋問権を奪い、又は、憲法三一条で定める法定手続保障の原則や、憲法三二条で定める裁判を受ける権利の侵害もあったものと思料致します。原審では、このように被告人側の真実追求と立証の機会を奪ったものであり、憲法三七条〈2〉項の違反又は、同法の適用(又は解釈)を誤り、延いては、重大なる事実誤認を犯したものが、明らかであるので、破棄される可きであると思料致します。

(2) 原審には、憲法一四条〈1〉項違反又は、同条の解釈適用上の誤りがあること。

憲法一四条〈1〉項では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」旨、規定されている一方、国税通則法一条では、「税務行政の公正な運営を図り、もって国民の納税義務の適性かつ円滑な履行に資することを目的とする。」旨定め、又、所得税法一条では、「納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定める。」旨、夫々定めている。然るに、本件一・二審共に、被告人に対する税務上の差別をして居り、憲法一四条〈1〉項で定める、法の下の平等の原則を犯している事実が、判明して居り破棄されなければ、著しく被告人に不利益を課すこと明らかであるから、取消しされる可きである次第を以下開陳致します。被告人から河田エイ宛に交付した二、二〇〇万円について、河田エイは、税務当局に対する、昭和五八年度確定申告に於て、雑所得利息(貸金)収入一八〇万円であった旨、申告して認められて居る事実が新証拠資料六-三、河田エイの確定申告書控えで明らかであるほか、同資料三の申立証書で被告人から受取った二、二〇〇万円は、立替金貸金などを返還して貰った金員であるから所得でも贈与金でもなく、貸金を返して貰ったものであったから、課税対象外のものであったので申告の要がなかったこと等について、税務当局自体これを公認していたものである。そうすると、被告人が、右河田エイに交付した二、二〇〇万円は、河田エイに対する被告人の借り入れ金の弁済であり、債務弁済であったから、同じ昭和五八年度の被告人の所得から、河田エイ宛、債務弁済名下支払った二、二〇〇万円は、所得から当然控除される可きである。然るに、税務当局は、不法にも右河田エイ宛の債務弁済を、債務弁済と認めず、単純贈与と認定して所得控除を全く認めずに、今日に至っている。又、同時に、これに基づき、起訴した検察官は、勿論、右事実を公知し乍ら、同様に所得控除を被告人に対し全く認めず、本件ほ脱所得額に計上し、一・二審も同様にして、被告人が、河田エイに交付した二、二〇〇万円は、贈与であった旨、夫々認定して、有罪に処していることは、明白であります。仮にも被告人が河田エイに交付した二、二〇〇万円が贈与であったとすれば、河田エイは当然受贈金として確定申告しなければならなかったことは、争うまでもないものであります。然るに税務当局は、本件で当然査察もして居り、河田エイが被告人から受取った二、二〇〇万円は、被告人に対する立替金等貸金の回収であったと認定しているのに拘らず、被告人に対してのみ明らかに、経済的に差別し、全く別異の贈与金等と認定し、所得控除を全く認めずに判決した不法は、憲法一四条〈1〉項で定める法の下の平等に違反することは明らかであるから原審、一審共に破棄されなければ、正義に反することは、明らかであると思料致します。

二 一・二審では、最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。

(1) 被告人が一・二審で一貫して主張して来た貸倒れについては、これを全く認められず、今日に至って居ります。然るに、貸し倒れについては、後日判明又は、確定したものでも、貸し倒れが明らかなものは、貸し倒れとして認めなければならない旨、左記最高裁判所の判例があります。左記判例は、民事判例でありますが、被告人の本件主張する貸倒れについても、当然適用され得るものでもあり、一・二審共に左記判例の趣旨及び解釈等に反することは、明らかでありますので、破棄されなければ著しく、正義に反するものと確信致します。

判例の表示

最高裁昭和四九年三月八日第二小法廷判決

(昭和四三年(オ)第三一四〇号不当利得返還請求事件)

(民集二八巻二号一八六頁)

(別冊ジュリスト租税判例百選)第二版(一四八頁)

判旨(要旨)

「貸倒れの発生とその数額が格別の認定判断をまつまでもなく客観的に明白で、課税庁に前記の認定判断権を留保する合理的必要性が認められないような場合にまで、課税庁自身による前記の是正措置が講ぜられないかぎり納税者が先の課税処分に基づく租税の収納を甘受しなければならないとすることは、著しく不当であって、正義公平の原則にもとるものというべきである。それゆえ、このような場合には、課税庁による是正措置がなくても、課税庁又は国は、納税者に対し、その貸倒れにかかる金額の限度においてもはや当該課税処分の効力を主張することができないものとなる。」

三 本件一・二審には、重大なる事実誤認があること。

本件被告人の所得額から、貸倒れ等の控除を全く認めず、その他の控除等も認められずに、今日に至って居りますが、特に、序論で、開示した通り、一審での証人河田信幸の偽証を真実と誤って一・二審共被告人の主張を認められず、誤った裁判をされるに至って居りますので、これを取消しされなければ、著しく正義にも反するばかりか、絶対的真実追求の刑事裁判の鉄則にも反しますので、訂正の上破棄し、改めて正しい裁判を求めるものでもあります。以下詳細に申し上げますので、然る可く御勘案の程を、お願い申し上げる次第であります。

(1) 河田信幸、河田エイ関係

(イ) 河田信幸の手数料控除について

河田信幸に対する手数料(支払い報酬)は、八〇〇万円であった旨、被告人は、捜査段階より、一貫して主張して参りましたが、一・二審共、証人として証言した河田信幸の嘘の証言を、措信し、私主張を全く聞き入れられず、三〇〇万円と認定して居ります。ところが、今般右証人の自白書面(新証拠資料一-三、同一-四)で真実は、被告人主張通り、八〇〇万円受取っていた旨、自白して居りますので、被告人は、間違いなく河田信幸に手数料として八〇〇万円支払ったものであり、右金員は、手数料であるから、当然本件の(私)被告人所得から八〇〇万円控除される可きであります。右の事実は、重大事実誤認であり、被告人の所得額に当然影響すること明らかであるから、破棄される可きものであります。

(ロ) 河田信幸、河田エイ等への貸倒れ控除について

河田信幸が、昭和五八年七月マンションを購入する時、その他、同年度中に被告人が、金一、〇〇〇万円貸したことは、一審証拠とされた被告人から河田信幸への催告のための内容証明便で明らかであり、又、被告人の検面でも伺い知られる通りであります。被告人が河田信幸、河田エイ双方に貸した金は一円も返されず同年度中の貸倒れとなっていることは明白であります。特に、河田信幸は、序論三項で開陳致しました通り、自らが大阪屋から金を借り(マンション担保)て(私)被告人に約四〇〇万円返済してあると偽証して居りますが、これを裁判所は、誤って真実と認め、河田信幸に対する貸倒れがない等と判断されて居ります。然し、右返金事実は全くなかったことが今般入手した新証拠資料一-三、同一-四、同五-四、同六-一、同六-二等で明らかであり、更に、昭和五八年八月二四日と同年九月二八日は共に被告人が旅行中で、都内に不在だったことでも、河田信幸が、被告人に現金を返すことができなかったことでも明白であり、右河田信幸の返済した旨の証言が偽証であり、これを真実と認める等したため、一・二審共河田信幸に対する貸倒れを全く認められなかったことは、誤りであった事実が証明されて居ります。尚、二審に提出した東京地裁昭和六〇年(ロ)第四一九一〇号外の和解調書を証拠として採用される居るのに拘らず、証人河田エイを申請したものの、却下されたため二審で証明不能に至った次第は、前記申し上げた通りであります。

河田信幸に対する貸倒れは、一、〇〇〇万円は認められないとしても、右和解確定による七〇〇万円は当然認められる可きでもあり、しかも、右和解したものの資力がなく和解不履行であり、全く一円とて支払わずに今日に至って居ります。河田信幸所有マンションには、既に昭和五八年中に極度額七〇〇万円も大阪屋に抵当権が設定されて居り、既に担保価値(担保余力)が全くなかったものであったことは、登記法謄本でも明白であり、河田信幸が本件証言した当時には、右大阪屋の抵当権は、住宅ローン会社に肩代わりされて、確定抵当権六五〇万円が設定されていたほか更に、(株)東宝に五〇万円と、別口で五〇〇万円の五五〇万円も抵当権が設定されて居て、合計実に一、二〇〇万円余の巨額の負債があったもので返済能力がなかったことは、本人河田信幸の証言(証言調書二五丁目後段の自白と二八丁目前段中頃の自白)でも自ら支払えない等と証言していることで明白であります。然るに、一・二審共未だ河田信幸の支払い能力がなく同年度中に貸倒れになったとは認められない等と判断して居り、被告人の貸倒れを全く認めていなかったことは、実情実態に反し余りにも、これら状況も無視したものでもあり(自白証言さえ省みないで)被告人の貸倒れを認めなかったことは、真実を裁判所自ら容易に知り得たにも拘らず、故意に、被告人に不利益に処断したものでもあると思料致します。次に、河田エイに対する貸倒れについては、原審証人として申請も却下され、立証不可能に至って居りますが、原審で採用された、昭和六〇年(ワ)第四四四五号東京地裁の和解調書で明らかに、河田エイが被告人から一、五五〇万円もの債務があったこと並びに、これが貸し倒れに該当し本人河田エイの資力がないため、同年度中は勿論、将来共、収入もないため返済できず、和解後も同様和解金の支払いもできないまま今日に至って居り、貸倒れとなっていることで明白であります。原審では、和解調書のみを証拠として採用されたが、本人である河田エイの証人申請を却下したため、これが立証不能に至ったことは、前記の通りであります。

(ハ) 河田エイ交付金が借金弁済であったから所得控除される可きものであったこと。

被告人は、既に前期本論一-(2)で開陳致した通り、昭和五八年三月被告人から河田エイ宛二、二〇〇万円交付した現金は、新証拠資料三、同六-三で明らかに被告人が、河田エイから借りていた金の弁済であったことは明白でありますので、当然、被告人の所得から貸金弁済された金額二、二〇〇万円は、所得控除される可きであった次第であります。然るに税務当局や、検察官共に、これを誤って、(私)被告人に対しては借金返済でなく、贈与金等であると認定し、課税対象にして所得から控除を全く認めず、一・二審は、これに従って同様に事実誤認や、前記本論一-(2)記載の誤りを犯して居りますので、取り消した上、改めて、被告人に対し、二、二〇〇万円は所得控除として認められる可きであります。

(2) 西新宿物産関係

被告人が、西新宿物産(株)提出約束手形等、不渡りによる六五〇万円が回収不能となったことは、昭和五八年七月右手形が不渡りと同時に全社が倒産し、右全社には資産は全くなく、代表者海谷侑宏にも資産が全くなく、保証人の兄海谷有孝にも同様に資力がなかったため、個人保証はしていても、事実上効力(回収見込みもない)が全くなかったものであります。右会社は、約八千万余り負債を抱えて倒産した個人会社であり、海谷兄弟共に債権届の追求を逃れるため、共に行方不明の実情でもあります。原審は単に個人保証しているから同年中に貸倒れとなったとは認められないと断定し、将来は回収できる見込みがあると云うのであります。八千万余円も負債を抱えて倒産し、個人でこれを弁済することなど全く資力もない右本人らが弁済できる見込みなど全くないことは一見して明らかであります。海谷本人が検面上弁済する旨意思はあるようですが、ほとんど不可能であります。又、被告人は既に同年七月倒産時点で、右債務は免除放棄する旨、海谷有考者に伝えて居ります。又、内容証明発信については、他の債権者に対しての工作上、あたかも六千万余被告人から借り入れもあった如く紛飾して欲しいと求められたことで、書いていたものであり、前記の如く被告人自身(貸金)債権を不渡手形となった時点で、債権放棄していたから、当然、同年度中の貸倒れとして認める可きものであったものであります。然し、海谷が検面で将来弁済するが如き供述のみ措信され、(私)被告人が同人の兄海谷有孝に対し既に「支払いを免除するから、早く立直って欲しい旨本人に伝えてくれ」と伝言した事実について、供述してないため、右検面を全面的に措信されたものであります。そこで被告人は原審で右証人海谷本人を申請し支払い免除していた事実等を立証し貸倒れ事実を証明しようと企てたが、原審は右証人を含め全証人を却下したため立証不能に至ったため事実誤認され貸倒れを認められず、今日に至って居ります。

(3) 民事確定貸倒れ関係

被告人を債権者とする民事確定債権(一覧表挙示)が存在することは調査段階から明らかでありますが一・二審共これら確定債権貸倒れ損失について全く認められず今日に至って居ります。然し、以下に表示する確定債権については、全て被告人自ら債権を放棄又は、免除することを相手方債務者側に伝えて意思表示をしていたものであったから、当然その時点で貸倒れが確定したものであるから、同年度中に貸倒れ損失として所得控除されなかった原判決は事実誤認を犯したものであり取消しされる可きであります。以下各件について簡単に説明することに致します。

(イ) 一覧表番号1(高原牧場(株))の債権について

一・二審共に、右債権について、被告人が債務者に対し債務免除の意思表示をした事実が認められないので、昭和五八年中に回収不能になったとは認められないと処断して居ります。然し、被告人は、同年五月二五日付で執行申立を取下げた時点で、相手に免除する旨通知していたものでもあり明らかに、債務免除したからこそ、執行取下げをしていたことでも明白であります。仮にも債権者の被告人が債務者側に対しての債権の放棄又は、免除するに際し、内容証明便などを以て通知した上、自らが債権放棄等した事実を証さねばならぬ規則など全くないから、単に普通便や(口頭で)債権放棄する旨、相手方に通知したからとて何ら無効ではない。本件では何であれ折角費用を被告人がかけて裁判所に相手方債務者の倒産を差押えて居り乍ら、これを同年五月二五日に取下げしたことは、被告人が自ら差押債権自体を放棄又は、免除したからこそ、取下げたものであることは経験別上明白であります。然し単に具体的に取り下げ放棄又は、免除したことを証する証拠がないから同年度中に右債権免除したものとは認められない旨の判断は、実情を全く理解しない不法なものである。仮にも、被告人は執行を取下げているのであるから、相手方債務者を取調べれば被告人がどうして取下げたものか速刻判明した筈である。然るに捜査当局は勿論一、二審共、何らこの点の取調べをしないまま証拠(確たる)とて全くないのに拘らず、被告人が同年中に債権放棄等したと認めらない旨認定したことは、早計でもあり、裁判所自ら証拠のない事実について推定による恣意による判決をしたものであったから取消しされる可きである。

(ロ) 一覧表番号4(尾崎恭彦)の債権について

本件について、一・二審共に、昭和五八年中に貸倒れになったものとは認められない旨、認定しているが、被告人は、既に昭和五八年三月頃に、尾崎恭彦の相続承継人に対し手紙で、(尾崎克典宛)通知して居り、意思表示していたから、同年度中に貸倒れが確定したことは明らかであり、前頃(イ)、同様の理由があるから、一・二審共これを認めなかった判決は誤りであり、取り消される可きであります。

(ハ) 一覧表番号7(櫛引藤司)同12((株)丸富)の債権について

丸藤興業の櫛引藤司関係の貸金債権について、昭和五八年六月十五日小林利治に回収方を依頼し、内金五万円の支払いを受けた同月二〇日、内金五万円を受取るに際し、残金全額を免除する旨の念書を差し入れて、被告人自ら、残金免除していたから、貸倒れ損失となったものである。因みに、右小林は、右事実を公知して居り同時に相手方債務者も公知している。しかし、原審判では、これらの事実を取調べることもなく却下されたものであり、事実誤認を犯したものであった。一方、(株)丸富に対する貸倒れ等も昭和五八年一一月頃に被告人から相手方菊地正敬方に書面で通知し免除したものであったから、意思表示していたものであり、貸倒れが確定していたものであるが、原審では、同様に貸倒れ損失と認められない旨、認定したことは、事実誤認であり破棄は免れないものである。

(ニ) 一覧表番号9(長嶌史朗)の債権について

本件について、一・二審共前記の如く、同様に昭和五八年中に残債権を被告人が放棄したり免除した意思表示がされた事実がないので貸倒れ損失とは認められない旨、認定している。然し、前記(イ)と同様に、昭和五八年二月三日動産差押執行したが、其の後同年七月一一日付で、右執行を取り下げした時に、残債全額を免除する意思表示をしていたものである。この事実は、債務者の母親である長島ちよ及び河田エイも公知しているのであるが、被告人主張を立証のため河田エイを、証人申請した処、却下されたため意思表示して債権放棄のしていたものであったことが立証できなかったものであります。仮にも、(イ)同様に裁判所に執行申告をして差押中のものまで、請求放棄したからこそ取下げしたものであることは、容易に理解出来得るのに拘らず原審は、これら事実を全く無視して事実誤認を犯した上、被告人に於て同年度中に債権放棄等意思表示した事実が認められないなどと、早計な判断をしていたものであったから、取消されるべきものでもあります。

(ホ) 一覧表番号10、11(田島勇次)の債権について

本債権については一・二審共に誤解等をされているようであるので、改めて御説明致しますが、被告人の田島勇次に対する確定債権は、合計三件でありその内、田島に対し免除した債権は、二件であり残りの一件は、全く免除してなかったものであります。然るに、一審より被告人が田島に対して有する債権は一覧表に挙示した二件のみに断定した誤りがあり、右二件のみが被告人の全債権と認定したため放棄も免除もしていなかった残りの一件と混合した誤りを犯して居ります。即ち、被告人は一覧表を以て表現した債権は、全債権の内、昭和五八年度中に放棄又は免除し貸倒れが確定したものだけを列記したものでありますから、田島に対する同年度中に免除し貸倒れが確定した債権二件のみ記載した訳であります。一覧表に記載して居ない残りの一件は、債権放棄していなかったから、仮に取立てしても全く問題がないものであった訳であります。ここで、改めて田島に対する全確定債権を表示しますと左の通りであります。

〈1〉 東京地裁昭和五二年(ワ)第八九八〇号

昭和五三年三月三日和解確定金三〇万円

〈2〉 東京簡裁(新宿簡裁扱)昭和五四年(ロ)第一八八〇号

昭和五四年四月二〇日支払命令確定金四〇〇万円

〈3〉 東京地裁昭和五六年(ロ)第一二、〇六七号

昭和五七年五月二一日和解確定金四〇万円

昭和五八年春頃、被告人は田島に逢い、右〈1〉、〈2〉の確定債権について免除することにし金五万円(計一〇万円)受け取って〈1〉、〈2〉の債権を放棄免除したので貸倒れ損に計上した次第であります。然し右〈3〉の確定債権は田島に分割支払いを求めていたが支払い履行しないため、昭和六〇年八月三日、再び執行申請していたものでもあった次第であります。この事実は、職権で明らかでありますほか、右〈1〉、〈2〉、〈3〉の各債権が存在していたことは、裁判所には公知の事実であります。ところが一・二審共に田島に対する被告人の債権を〈1〉、〈2〉のみであると誤って認定し、〈3〉の執行申請事実を基に、〈1〉、〈2〉の債権免除したことを配慮されずに、これら全債権について、昭和五八年度中に貸倒れが確定していないと誤認されて居る次第であります。被告人は、一審の右の誤認があったので二審で田島本人を証人申請したのでありますが、残念乍ら二審裁判所は、これを却下し(全申請証人を却下している)たため右の事実等立証不能となり、その結果、重大なる事実誤認をされて居るものでありますから、破棄される可きであります。右の通り田島に、対する貸倒れは、〈1〉、〈2〉の残債(利息を含む)であり、〈9〉の別債権は貸倒れ主張してないものであります点等を御理解賜わり度い次第であります。

(ヘ) 一覧表番号13((株)アコスインターナショナル)の債権について

本債権についても前記(ハ)記載(株)丸富と同時期に、商号を(株)山和通商と変更登記し、新しく代表者になっていた、原田宛に免除し放棄する旨、手紙で通知をしていたものであります。従って、被告人は請求放棄した同年度中に貸倒れとなっていることは明らかでありますが、一・二審共にこの事実を全く認めず、事実誤認を犯しているから破棄される可きものであることは、前示(ハ)と同様でもあります。

(ト) 一覧表番号18(佐藤督)の債権について

本件についても昭和五八年一一月二八日債権が、判決で全額確定しましたが、債務者の佐藤には、全く資力がない事実が判明したため、被告人は、佐藤に対し全額免除するが訴訟費用のみは、招来支払い可能になった時に、支払ってくれることを約し、債権自体全額を、同年一二月初頃に免除する旨、手紙で通知し、被告人より意思表示をしていたものでありますから、当然昭和五八年度中の貸倒れが確定していたものでありますが、一・二審共にこれを全く認めず却下されたことは重大な事実誤認であったから破棄される可きであります。

(チ) 以上の如く全て被告人の主張した貸倒れについては、一・二審共に却下したことは、審理不尽によるものであったことは明白であり、各債務者に確認等していたら当然被告人主張事実が真実でもあったことが判明(証明)されたものであるにも拘らず、これを怠ったため重大な事実誤認を犯し、被告人の昭和五八年度中の貸倒れ損失を全く認めず、延いては被告人の同年度中の所得の計算に多大な影響を及ぼし、ほ脱税額にも重大な影響を及ぼしているほか、量刑(罪金を含む)にも甚だ影響を及ぼしていることは明らかでもあるので破棄されなければ正義に反すると思料致しますので、然る可く御勘案の程を賜り度く申し上げる次第であります。

(4) 津島己喜蔵に対する債権について

被告人は、津島己喜蔵らの所得脱税のために借用証書などを偽造して居りますが、序論一項でも申し上げました通り、右偽造行使する元になった債権五、〇〇〇万円は確かに存在していたものであります。この事実は被告人自ら検面で申して居る通りであります。(尚、この時の検面では、ペン書きとタイプ印刷を逆に調書で書かれて居りますのは、誤りであり、タイプ“念書”による保証債務五、〇〇〇万であったものです。)被告人が津島と、桜井の双方から受取った金員は、一億五、〇〇〇万円であり、内一億二、〇〇〇万円が津島から受取ったものであります。この内から五、〇〇〇万は、固有の保証債務であった訳でありますが、一審では未だこの証拠が全く発見されて居なかったため、止むなく主張立証共不可能であったものの、二審の最終日直前に至って偶然重要証拠の“念書”が発見されるに至ったので急拠、弁護人により証拠(追加)申請して提出したところ検察官の反対で却下されて居ります。一方、二審では、昭和五一年当時、私が木藤米吉に約五、〇〇〇万円貸すに至ったことは検面で主張した通りでありますが、この時に保証人を付けるよう求めたところ、木藤は、津島己喜蔵の保証人たる五、〇〇〇万円に対する保証書の“念書”を被告人に交付してくれたものであります。本件債務者の木藤も津島も共に死亡して居るためこれが事実を証明する証人は誰も不在ですが、唯一の証人田島が知っていたので、田島に対する(別件)主張する(私)被告人の貸倒れや債務免除事実の立証と共に、右事実を立証せんと二審で試みたものの、右証人申請も却下され、一人として二審では証人(申請)を採用されず結審し被告人の手続には何れも理由がない等と独断による恣意による判決をされたものである事実は前記の通りであります。このため被告人は二審最終日直前発見された重要証拠たる“念書”を却下されたほか、唯一の生存中の証人田島の証言も得られず、従って、被告人主張の立証の機会を全く奪われたまま、理由がない等と主張却下され不法な判決を甘受せざるを得ぬにも至り甚だ残念に耐えません。被告人は所得税法違反をし多額の報酬を受取り、確かに反省して居りますもののだからと申して被告人の主張に全く耳を貸そうとしない裁判所の態度は、正義のためにも許されないものと確信致します。尚、田島勇次から今日に至って、右事実を証する書面を、やっと送付されたため(提出可能となったため)今回、新証拠資料八-一、同八-二、同八-三として提出致しますので、何卒、御披見喪賜わり度く申し上げます。仮にも二審で、田島を証人調べされて居たら、それが立証できたことは申すまでもありません。二審で右田島証人を却下したため(唯一の証人)書証として今になってやっと入手できた実情等何卒御理解の程を賜わり度く存じます。

四 本件は、再審の請求をすることができる場合に該当すること。

本件一審証人河田信幸の証言が偽証でもあった事実は、前述の通りであり、新証拠資料一-四で本人自ら自白するところでもあります。右偽証事実は、被告人が河田に交付した支払い手数料が、実は、被告人主張通り八〇〇万円であり右証人証言している三〇〇万円ではなかったことと、これを証拠として支払い手数料を三〇〇万円である旨認定した一・二審共に重大事実誤認を犯していることは、明らかであり、延いては、被告人の所得控除に重大な影響を及ぼすことは争うまでもない事実であります。その他、被告人と河田信幸との貸借や取引関係についても、右証人の証言が全く事実無限の虚構証言でもあったものであり、これら偽証によって被告人の蒙る損害等は計り知れないものである次第も明白であり、当然、判決には重大なる影響を及ぼすものであります。ところで、刑訴法四三五条二〇号では、偽証事実について確定判決で証明された時に初めて再審が許される旨定めてありますため、被告人らが右証人を告訴した上、偽証罪について、有罪判決等を得られない限りは再審請求ができないため、それまで待たなければならぬことになります。然し、これから告訴の上、証人の偽証についての有罪判決を得るまでには相当の日時を要し、到底当審中には間に合わないものと思われます。(御庁職権でそれまで裁判を一時停止等する時は別であります。)ところで本件偽証については本人自らの自白書面で既に自白自認して居りますので、既に只今現在偽証したことは明白でありますので特段の事情がある次第を、御勘案又は御理解賜わり、然る可く、御裁下の程を、お願い申し上げます。仮に右事実について御裁下ない時は、何れにせよ、被告人は当然告訴した上、再審請求することにもなりますが、訴訟経済上、既に偽証が明白となっている現時点で御庁職権による御裁下の程を特に賜わり度くお願い申し上げる次第であります。

(以上)

結論

一 細目に亘る結論

(1) 論旨の結語

被告人に対する所得税法違反について、一・二審の誤りや、採証上の不適及びその他の法令違反・審理不尽又は、重大なる事実誤認等、以上被告人自ら気が付いた点のみ申し上げましたが、本書のほかに弁護人より夫々独自の見解を開陳して戴く予定であります。被告人は、法的にも無知であり、論旨論点をいささか逸脱した点等度々有ることと存じますが、被告人の主張せんとするところを何卒御理解され、特に一・二審では、審理不尽による被告人の主張に対する立証が事実上、重大な阻害を蒙り、更に、被告人主張を全く聞き入れら出ず、偽証した証人の証言を措信されたため重大なる事実誤認を犯したことは明らかでありますので破棄されなければ著しく正義にもどることは申すまでもない次第であります。何卒どうか被告人の主張せんとすることを御理解されますよう、又、一・二審で立証のため提出できなかった新証拠資料は、今日に入って何れも偶然入手できたものである実情等も御理解下され、被告人の主張する事実が真実であることを証する重要な書証でもありますので本書に欠かすことのできない証拠でもあり、提出申し上げます。どうか、御披見賜わり度く重ねてお願い申し上げます。

(2) 被告人主張の所得控除額の結論

被告人が以上主張したところをまとめて申し上げると左記の如き所得控除を一審認定に加算されることになります。以下被告人が一審から主張して参りました必要経費控除及び割引手数量収入の誤りは省略致し、本書主張のみを記載(要約)して見ると大要左記の如くになります。

〈1〉 河田信幸の支払手数料

一・二審の三〇〇万円の認定は誤りであって、金八〇〇万円であります。

〈2〉 河田信幸及び河田エイの貸倒れ損

二審証拠申請した河田エイ書状の中に被告人らの借用証は破棄した(昭和五八年八月頃)旨申している通り借用証破棄した時点で債務合計二、二五〇万円を免除していた事実が明白であるが、ここでは貸倒れ損は、あえて主張しないこととする。

〈3〉 河田エイ交付金の所得控除

被告人河田エイに交付した二、二〇〇万円は、借金弁済であったから同年中の所得から当然控除される可きものであった誤りがある。

〈4〉 西新宿物産(株)貸倒れ損

右会社提出手形が不渡りになり倒産した時点の同年度中に六五〇万円全額貸倒れ損となる。

〈5〉 高原牧場(株)貸倒れ損

右会社に対する差押え取下げた時点で(同年中)債権全額一〇〇万円の貸倒れ損となる。

〈6〉 尾崎恭彦関係貸倒れ損

相続人に対し債権放棄を通知した時点(同年中)残債全額三〇万円の貸倒れ損となる。

〈7〉 丸藤興業(株)櫛引藤司貸倒れ損

代理人小林から取立回収した五万円で残金免除した時点(同年中)残金四五万円貸倒れ損。

〈8〉 (株)丸富関係貸倒れ損

代表者菊池に債権放棄の通知した時点(同年中)に全額三〇〇万円の貸倒れ損。

〈9〉 長嶌史朗貸倒れ損

総額三八〇万円中一三万円回収した残金三六七万円について差押取下げし放棄した時点で貸倒れ損。

〈10〉 田島勇次の貸倒れ損

三件の債権の内二件について四〇〇万と三〇万(計四三〇万)について、回収分三四万円を引いた残債三九六万円について同年中に放棄免除通知し貸倒れ三九六万円確定した。(尚、別件の債権四〇万円は未放棄である。)

〈11〉 (株)アコスインターナショナル貸倒れ損

元金一五〇万円全額を免除通知した時点(同年中)貸倒れ一五〇万円確定済。

〈12〉 佐藤関係貸倒れ損

元金二五〇万円について全額免除通知した時点(同年中)貸倒れ二五〇万円確定済。

〈13〉 津島巳喜蔵保証債務回収

元本五〇〇〇万円保証債務回収であるから右津島から受取手数料(報酬)一億二千万円から五千万円を控除されることとなり、所得は七、〇〇〇万円であったことになる。

右の内〈3〉から〈12〉までの貸倒れ金合計は四、六八八万円となる。更に、それに〈1〉の河田信幸らの支払い手数料加算五〇〇万円となり〈13〉の保証債務五〇〇〇万円(元本のみ)を加算した合計額は金一億一八八万円となる。この金額は一審で認定された被告人の所得から差し引かれる可き貸倒れ等に該当するから認定に係る雑所得金九一、三四一、三一〇円から右額一〇一、八八〇、〇〇〇円を差引くと実に赤字金一〇、五三八、六九〇円となりマイナスであったことが判明する。このように被告人の昭和五八年度の所得は、実は赤字であったからほ脱事実は全くなかったものであり、所得税違反として被告人自身のほ脱有りと訴追したこと自体が誤りであり、それに基づき真実を全く追求せず、証拠調べもしないで被告人主張を却下した一・二審共に被告人に対し無実の刑を課したものであったから、破棄されなければ、著しく正義に反するものであります。

以上の次第、何卒宜しく御検討され誤賢明なる裁判を求めるものであります。

以上

本訴当審に至って提出可能となっている

新証拠資料目録

〈省略〉

以上

〈省略〉

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